
【対談記事】
「戦場でともに戦ってくれる軍師」。ANDPADの非連続な成長を現場から支えるXcelerator

【対談記事】
「戦場でともに戦ってくれる軍師」。ANDPADの非連続な成長を現場から支えるXcelerator

建設現場向けDXサービスを主力製品とするANDPADはここ数年躍進を遂げており、2023年には「日本スタートアップ大賞2023」にて国土交通大臣賞(国土交通スタートアップ賞)を受賞しています。建設業界を真に変革する「カテゴリーリーダー」となるべく、新規事業にも積極的な姿勢を見せています。今回、ANDPADの荻野CFOおよび櫻山本部長を交え、Xceleratorが支援する同社の新規事業開発への取り組みについて対談を実施。プロジェクト発足の背景や進捗、Xceleratorへの評価など幅広く語っていただきました。
Xceleratorはいわば「コンサル機能を有する投資会社
まずは、横山さんから自己紹介をお願いします。
横山:私は経営コンサルティングファームで働いた後、1度スタートアップを立ち上げています。その事業を売却したあと、当時お世話になっていたVCの紹介がきっかけでANDPADに入社しました。経営戦略本部のマネージャーとして、新規事業開発やプライシングモデルの策定などをリードしたのですが、そのときの上司こそが荻野さんでした。

ANDPADを退職後、「コンサルティング機能を有したベンチャー投資会社」であるXceleratorをスタートさせました。事業内容は主に、①Fund & Insight(海外を含むスタートアップ業界を中心に市場を分析し、投資も実行する)、②Disruptive Strategy(スタートアップやテクノロジーの動向を分析し、大企業向けに経営戦略策定支援を行う)、③Development(経営戦略の実行支援を行う)の3つです。
荻野さんはこれまでマクロミルやミクシィで重役を歴任し、Institutional Investor誌が選ぶAPAC地域における「Best CFO」に2度も選出されています。ANDPADに参画してからはどのようなロールを担当されたのでしょうか。
荻野CFO:ANDPADに入社したのは、「世界で勝てる会社」をつくることに挑戦したかったからです。世界で勝つ会社になるには「カテゴリーリーダーになれること」「プラットフォームになれること」の2つの要素が必要だという仮説を持っています。同社はそれら両方を備えていると考え入社を決めました。

2020年4月より取締役CFOとして参画し、資金調達や投資計画の立案に深く関わってきました。具体的にはシリーズCでの約60億円の調達、シリーズDでの約120億円の調達をそれぞれリード。調達資金を用いて、グローバル展開の一環として開発拠点をベトナムに作ったり、新規事業開発を含む非連続な成長に向けた複数のプロジェクトの陣頭指揮を執ったりしてきました。
最後に、今回両社が関わっている新規事業を率いる櫻山本部長はこれまでどのようなキャリアを歩まれてきたのでしょうか。
櫻山本部長:約5年ほどコンサルティングファームに努めており、主に新規事業開発案件に携わりました。ANDPADの新規事業開発プロジェクトが発足する前のタイミングで荻野と出会い、同社の事業内容に興味を持ち始めました。仕事に不満はありませんでしたが、建設業界を変革しようとするANDPADが持つポテンシャルには凄いものがあると感じ、「ポジションありますか」と荻野に連絡したのを覚えています(笑)。現在は該当する新規事業本部を率いています。

「手をつけない理由がない」新規事業開発プロジェクトを発足
Xceleratorが関わる新規事業開発について伺いたいと思います。プロジェクトが発足したきっかけはどういったものだったんでしょうか。
荻野CFO:課題意識からというよりは、「手をつけない理由が無い」と感じたことをきっかけに取り組み始めました。スタートアップとして世界的な成功を収めるためには「カテゴリーリーダー」になることが必須です。そのためには建設業界のあらゆる課題を解決する真のプラットフォームを提供しなければなりません。既存事業が国内の建設業界で一定の存在感を示すことができるようになった今、プラットフォーマーとして次なる一手を打つべきタイミングがきたと考えています。
横山:外部の視点から見ると、エクイティ調達をしているスタートアップとして「非連続的な成長」をコンスタントに達成しなければならないことも、理由の1つだと考えています。ご存じの通りANDPADは世界的に著名なセコイア(Sequoia Capital China)からも調達を受けています。グローバル・SaaSベンチャーが達成すべき指標である「※T2D3」のプレッシャーもあったのではないでしょうか。主力サービスが順調に伸びている今、そのクライアントリストを活用できる新規事業を生み出すことで、企業として更なる飛躍を目指していると理解しています。※T2D3:SaaS事業を開始してからの売上額が、前年を基準に毎年3倍、3倍、2倍、2倍、2倍と増え、「5年で72倍」の売上を目指すべきという指標
なるほど。プロジェクト立ち上げ当初に感じていた課題感は何かありますか?
荻野CFO:新規事業を立ち上げる上では、「圧倒的な当事者意識をもって新規事業を牽引してくれるリーダー」が必要でした。誰に任せようか、と考えているときに櫻山と出会ったんです。新規事業開発のバックグラウンドもあり、ANDPADのビジョンに強く共感してくれる彼に託そうと考えました。

支援する立場であるXceleratorとしては、本プロジェクトはどのように捉えていましたか?
横山:詳しい事業領域については未だ公開はできませんが、今回我々が取り組む領域において、BtoB SaaS企業がこの新規事業を成功させた事例は世界的にも多くはないです。支援させて頂く身としては、手探りな部分が多く緊張感あるプロジェクトですが、日本や世界に新たなケースを打ち立てる気持ちで参画しました。
また、ある程度以上の規模感の会社で新規事業を開発することは、新たにスタートアップを立ち上げるより難易度は高いです。意思決定する際の権限や、資金・人材面におけるリソースに制限がある中で、新たなビジネスを1つ作る必要があるからです。
ともに戦場を駆け巡る「軍師」として期待
Xceleratorへの依頼を決めた背景は何ですか?
荻野CFO:櫻山に一人で戦わせてはいけないと考え、横山さんに白羽の矢をたてました。櫻山はコンサル出身ということもあり、本来は客観的に状況を捉えて戦略を打ち立てることができる人ですが、「自身が何とかしなければならない」といった当事者意識ゆえに全体を俯瞰した意思決定が難しくなるだろうと考えました。常に状況を冷静に分析しながら、将軍を正しい道に導くことができる「軍師」が必要だと考え、横山さんにお声がけした次第です。

櫻山本部長:横山さんはご自身でスタートアップを経営されていたこともあり、事業立ち上げの現場感を非常に解像度高く理解してくれています。ディスカッションをする上で、プランニングのためではなく「実践を見据えた上で議論を展開してくれる」方だと知っていたので、非常に信頼していました。
荻野CFO:軍師の例で言えば、「大本営側にいる軍師」は必要なく、将軍と共に戦場を駆け巡ってくれる軍師こそが我々が求めていたものでした。一般的なコンサルは「やること」や「納期」を定義してプロジェクトを進行していくと思いますが、新規事業開発はそのようなやり方では進みません。横山さんはANDPADの事情をよく理解し、大本営ではなく「戦場にいる軍師」として「何でもやる」タイプだと知っていたので依頼しました。
付け加えると、今回新規事業を展開する領域であるSaaS業界やSaaSビジネスについて深く理解している点も決め手の一つでしょう。SaaS事業を始める際に、グローバルの事例を含めたSaaS業界の歴史を踏まえておくことは必須です。横山さんは、そうした歴史を押さえることは勿論、SaaSビジネスに関する多くの事例や数値を分析し独自の理論に落とし込んでもいました。例えば、過去に横山さんが「プライシングストラクチャー」について熱弁していました。簡単に言えば「月額単価をあげるほうが、営業にリソースを割くよりも4倍効率が良い。」というものです。結局どこに経営資源を当てていくべきかを経営者目線で考えて提言してくれる力があるのです。
まさに横山さんはどんぴしゃの存在だったのですね。ご自身の強みが活きているという実感はございますか?
横山:スタートアップを経営していた際に他のスタートアップの「失敗を科学」していたことが活きています。成功は「アート」のようなもので、その時々の市場環境や創業メンバーなど変数があまりに多く、「こうすれば成功する」といった方程式を生み出すことは不可能だと思います。しかし、自身でスタートアップを経営し、更に色々なスタートアップを調査していく中で、「失敗をしている企業には共通点がある」と気づきました。落とし穴を事前に把握できれば、事業立ち上げの成功確率は飛躍的に高まります。同様に、SaaSビジネスを分析することで「過去に失敗したSaaS事業と同じ轍を踏まない」ための理論を確立してきました。

また弊社は「理論」を「実践」に落とし込むことにも強いこだわりを持っています。学生時代、途上国で活動する社会起業家の支援をしていたことがあり、計画したものを実践することの難しさを痛感した原体験があるためです。支援内容は、例えば「4P分析フレームワークを用いて販売戦略を練る」といった非常にシンプルなものだったのですが、実際にやろうとすると中々うまくいかないんです。理論と実践の橋渡しをすることで、はじめて将軍や軍師及び軍隊の真の価値を発揮できると考えています。
「暗中模索から、視界がクリアに」プロジェクトの現状と評価—理論と実践の双方を深く理解しているからこそ、その橋渡しができるんですね。現在のプロジェクトの状況はどのようになっているのでしょうか。
櫻山本部長:2023年2月に事業が立ち上がり、現在はグロースさせるフェーズに入っています。25年、26年と高い売上目標を掲げており、数値達成に向けたアクションプランニングや組織体制の強化を図っています。Xceleratorには2023年10月からプロジェクトに参画いただいております。現在は、「事業成果を上げるための重要な変数を特定する」ことにフォーカスして支援していただいております。
「重要な変数を特定する」とは具体的にどのようなことをされているんでしょうか。
横山:Xceleratorがジョインした段階ですでに事業発足から8ヶ月が経過しており、社内には豊富な実績データが蓄積されていました。試行錯誤して生み出されたそうしたデータを有効活用し、いわゆるファネル分析に役立てることが私の役目です。「最も離脱を防ぐことに繋がる施策は何か」「最も成約に繋がる施策は何か」を明らかにする作業をしています。「将軍(=櫻山本部長)を戦うべき戦場」に導くことを意識しています。
また、データと睨めっこしてるだけでは分からない「現場感」も極めて重要だと考えています。現場感を無視したプランニングというものは得てして実践できない空想である場合が多いです。ですから、櫻山本部長とメンバーとの1on1にも同席させていただき、メンバーが実践の場で抱えている課題などを聞きながら現場の温度感を把握することにも努めています。
Xceleratorが参画して4ヶ月が経過しています。これまでの動きに対してどのように評価されていますか?
荻野CFO:Xceleratorに入っていただいたことで、暗中模索だった状態から、「視界が一気にクリアになった」と思っています。新規事業を立ち上げる際は、やらなければならないことに対してリソースが不足している上に、毎日新たな課題が発生します。そうした慌ただしい状況を驚異的なスピードで整理していただいたおかげで、「正しくPDCAが回せる」ようになりましたね。これは、横山さんをはじめXceleratorのメンバーの「問いの力」が圧倒的に優れているからこそだと考えています。本質的な問いを作ることが、組織に足りていない事を把握したり、本当にやるべき事を導出することに繋がります。

櫻山本部長:私はシンプルに勇気をもらえています。それは彼が、実際に同じ目線で伴走してくれているからというのもありますが、緻密な分析に基づいた「信頼できる提案や視点」を常に授けてくれるからです。1on1にも同席いただいて、現場の理解に対するギャップが少ないので、彼の話には「分かってるな」と思わせる納得感があります。事業開発において一歩先は未開の地ですから、常に迷いと葛藤が生まれます。そうした時に、理論と実践を高い次元で理解したXceleratorの提言は非常に心強いものがあるのです。
荻野CFO:それでいうと、Xceleratorは徹底した分析と理論武装、そして現場の理解からくる自信を背景に「絶対にこれをやるべき」と主体的に提言してくれることも嬉しいですよね。通常のコンサルはA案、B案、C案を並べてそれぞれのメリット/デメリットを示した上で、意思決定はクライアントに委ねますから。同じレベルで当事者意識を共有してくれているからこそ、そうした姿勢を貫けるんだと思います。
再現性の秘訣は厳正な採用基準とナレッジシェア
「理論と実践の橋渡し」について、横山さんだけではなくXceleratorとして再現性高く実現するために取り組んでいることはありますか?
横山:他のコンサルティングファームと比較してもかなり厳しい選考基準を設けて、組織としての質を担保しています。具体的には戦略ファーム出身者の中から、トップ数%の実力者を採用しています。注目しているのは、「事業のオーナーシップを握ったことがあるかどうか」であり、私と同じようにコンサルの経験に加えて事業の立ち上げやリードをした経験がある人を積極的に採用しています。それが「理論と実践の橋渡し」を再現性高く実現できる要因だと捉えています。
組織まわりに関する取り組みとしては、ナレッジシェアリングの仕組み化も徹底しています。自己紹介でも話した通り、弊社はコンサルティング機能に加えて投資機能も有しており、VC出身者も在籍しています。強みや知識が大きく異なるコンサル出身者とファンド出身者の間で、確実にナレッジの交換がされるように社内コミュニケーションを構築してもいます。それにより、経営戦略とスタートアップの定石やトレンドをブリッジさせるようにしています。
櫻山本部長:そんなに厳しい採用基準を設けているんですね!確かに、Xceleratorのメンバーは皆さん大変賢いと感じます。加えて、特に驚くべきはメンバーの「キャッチアップの速さ」です。2ヶ月ほど前に、横山さんとは別にもう1名アサインされた方がいますが、事業理解のスピードが驚異的で、パフォーマンスを発揮するまでの助走期間が大変短かったんですよね。
横山:活躍を評価していただけて嬉しいです。定性的な採用基準として、「当事者意識」「誠実さ」「人生における軸があるか」という3つを設定しています。そのうちの「当事者意識」とは「クライアントのCEOの視点で物事を考えられるか」と言い換えられます。この意識を持っているが故に、死に物狂いでキャッチアップできるのかなと考えます。
ゴールはあくまで「ANDPADの企業価値の向上」
ありがとうございます。最後に今回の新規事業に込める想いを語っていただきたいと思います。
櫻山本部長:事業責任者として、事業計画で掲げている数値目標を達成することは大前提です。でも、本当に目指すのは5年後に「このサービスがないことは考えられないよね」と言われる世界観です。そのように言われてこそ、真に社会変革を成し遂げたと言えると思っています。
また、この新規事業を成功に導くことで「ANDPADの理想的な新規事業開発モデル」を作ることも裏テーマとして掲げています。ANDPADが非連続の成長を続けるためには、この事業の成功をモデル化することで、今後事業を生み出していく際に頼りになる羅針盤が出来上がるはずです。

荻野CFO:冒頭にも述べたように、我々は建設業界におけるカテゴリーリーダーになるという至上命題があります。既存事業がすでに一定の成功を収め、建設現場の改善に少なからず役立っている一方で、顧客企業が抱える多くの課題は未だ放置されている状態です。建設業界の顧客に対して包括的なサービスを提供するための次なる一手として、この新規事業は必ず成功させなければならないと思っています。
横山:今後も上段の理論だけにとどまらず、組織や実践にまで深く入り込んで「新規事業を創り切る」ことを意識して取り組んでいきます。しかし、あくまでゴールは事業を創ることではなく、「ANDPADの企業価値にヒットさせること」。ANDPADのグロースドライバーを生み出し、同社が世界で戦える企業に成長させるつもりでこれからも伴走させていただきます。本日はお忙しい中、対談にご協力いただきありがとうございました。
荻野CFO、櫻山本部長:ありがとうございました。
